東京高等裁判所 昭和31年(ネ)1001号 判決
全東栄信用協同組合
証拠を綜合すれば、次の事実を認めることができる。すなわち、控訴人松風屋は菓子及び食品玩具の販売を営むことを目的とする株式会社であるところ、川端信義は昭和二十五年二月頃から同会社東京支店に雇われ、昭和二十七年四月頃からは会計係として日計表、振替伝票、決算書等の作成整理、または支店長の承認を得た支払予定表にもとずく債務弁済、支店長の指図による小切手、手形の作成交付等の事務を執つていた。而してその頃、川端信義の友人で食料品販売業を営む相原精一がその営業資金に窮し、川端信義に金策を懇請したため、川端信義は、やむなく、同人に手形割引等の方法により金融を得させる目的で、何等権限を有しないにも拘らず、独断で、控訴会社経理室の印掛にあつた同会社東京支店のゴム印、及び印箱にあつた同支店長の丸印を使用して相原精一に宛てた金額四十五万円、満期日昭和二十八年五月二十日の約束手形を作成してこれを相原精一に交付し、相原は右手形につき同年三月中被控訴人全東栄信用協同組合から代金四十三万六千七百二十五円で割引を受けた。然るにその後被控訴人は右手形の支払を受けることができなかつたので、右割引代金に相当する損害を蒙るに至つた。
上記認定の事実に徴すると川端信義は相原精一が右手形により他から割引を受けることを知つていたか、または容易に知り得たものと認められるから、川端信義は右手形を流通においたことにより被控訴人の蒙つた損害につき不法行為者としてその責任を免れ得ないものというべきである。而も前記認定の事実を参酌すれば、川端信義の右手形作成交付の行為は、その担当する小切手、手形作成、交付等の業務に従いながら執られた行為と相類する行為と認められるから、右行為により加えられた損害は民法第七百十五条にいわゆる事業の執行につき加えられた損害に当るものというべく、控訴会社は被用者である川端信義が被控訴人に蒙らせた損害につきその賠償の責に任ずることを要するものといわねばならない。
従つて控訴人は被控訴人に対し前示割引代金に相当する金額及びこれに対する年五分の割合による損害金の支払をなすべき義務のあることが明らかであるとして、本件控訴はこれを棄却した。